「継続的な自社研修が設計できる」と、高い評価を受けている期待の講師がいる。名は山田唯夫。飲食店や小売店のオーナーである彼が、今では口コミで新規顧客が自然と舞い込む名物講師の一人へと成長を遂げた。その過去とは、そして彼の理想とは。叩き上げブランディングプロデューサーの安藤竜二が、山田唯夫の素顔に迫る。
自社研修のプロを育てる
安藤竜二(以下、安藤)
まずは山田さんが運営するヒューマンリレーションズ株式会社の事業について教えてください。
山田唯夫(以下、山田)
全国各地の飲食店や食品会社、一般企業に向けた企業内研修や講演型研修を行っています。これまでに5000人以上の方にご受講いただき、人材の育成および自社研修の大切さを伝えてきました。
私の研修の目的は、受講生に自社研修の講師へと成長していただくことです。研修後、効果的な自社研修を社内の仲間と設計し実践できるようにアドバイスやサポートをするのが私の役目です。
安藤
山田さんの研修は非常に評判になっています。ちらっと資料も拝見しましたが、実例が分かりやすいですね。
山田
さすがにここで具体的な内容を明かすことはできませんが(笑)、大まかな流れは1ヶ月に1回、訪問させていただき研修を実施。
6ヶ月間かけて行うのをベーシックにしています。
最初の3ヶ月間は、自身の体験経験と心理学などに基づいて構築した法則をもとに基礎を身につけてもらいます。この期間は「視座(個人)を高める」と呼んでいます。
経営者は会社全体を俯瞰していますが、アルバイトさんなら目の前の作業しか見えていないでしょう。個人が成長し視座が高まることで組織を見る視点が変わります。
役職は責任の所在ですから、さほど関係はありません。
肝心なのは個人の意識を変えて、視座を高めてを広げてもらうことです。
4ヶ月目からはトレーナーとしてのロールプレイングも平行して行います。社員の方がトレーナーになって壇上に立ち、自社のスタッフに向けて講義を行います。
安藤
それはユニークですね。人前に立ち人前で話す。さっそく講師としてのトレーニングを行っていくわけですね。
山田
その通りです。先ほど申し上げたようにゴールは自社研修の設計です。講師やトレーナーになって、継続的な学びの場を社内に生み出してもらわなければなりません。
そもそも経営者や社員の方々が、自分の会社に対してよりも深い愛情や誇りを持っているはず。企業はそうあるべきですし、だからこそ自社研修が大切なのです。
ロールプレイングでは研修で学んだ内容を自分たちで噛み砕いて伝わりやすいようにアレンジし、自分の言葉で発信していただいています。
こうして共通言語・共通認識・共通体験・共通理解を全体に落とし込んでいく。4ヶ月目や5ヶ月目になると変化が見えるようになります。
4ヶ月目には「よかったら知り合いの社長さんや取引先の方を招待してください」と伝えているのですが、招待された方々は、「以前とは別の会社みたいじゃないか今までどんな研修やってきたの」と変化に驚く方がほとんどです。
安藤
山田さんの研修が「効果が出る」と人気な理由は、内容が机上の空論ではないということではないでしょうか。経験に基づいた内容になっている。
山田
そうですね。誇りを持って言えるのは、私自身が研修で伝えている内容を実践して結果が出せたということです。私は企業内研修の講師として活動する一方、焼肉店「かわちどん黒川本家」「焼肉材料の卸小売」「居酒屋」など飲食店・小売店を切り盛りする経営者でもあります。
”教育”を志すきっかけ
安藤
教育の大切さに気付いたのはいつでした?
山田
20代後半です。
飲食店など小規模なビジネルモデルですと、スターが一人いれば何とかなるもの。
私一人がアルバイト20人の前で最高のパフォーマンスを発揮すれば、自然と店に活気が生まれる。
そうして繁盛する。自慢でも誇張でもなく、店舗という小さな集団で見ればそういうものなのかもしれません。
それが多店舗展開になると話は変わってきます。3〜5店舗と増えればマンパワーではどうにもなりません。
伝えたいことも伝えられず、モチベーションに大きな差が生じて、パートさんやアルバイトさんも辞めていくようになりました。
当時の私にはチームや組織を作る能力がなかったのです。大きな転機となったのは2000年に起こった東海豪雨。記録的な激しい雨は多くの地域で浸水被害を引き起こしました。
私の店も腰の高さまで水没…。スタッフの気持ちもバラバラの時期で、そこに畳み掛けるようにやって来た大災害。「これはつぶれるな」そう覚悟しました。
その時、一人の女性アルバイトがいました。「今日から仕事を変えます」と。
仕方ないと思っていたら、「仕事は変えます。
山田さんを助けるのが仕事です。」と言うのです。
マンパワーだけで必死に突っ走っていた頃、その時に築いた絆という財産が残っていたのです。東海豪雨で半数のアルバイトは去ろうとしましたが、残りの半数のアルバイトが留まって、去ろうとした人間を引き戻してくれた。そうして苦難を乗り切ることができました。
「みんなに恩返しをしなければいけない。だから絶対に強いチームを作らなければいけない」そう痛感しましたね。
私が教育について真剣に考え始めたのはこの頃です。
安藤
労働力不足が叫ばれている昨今、人材の確保は企業にとっての命題です。それを自身の経験を通して痛感したのですね。
山田
はい。誰かを教育するためには、まずは自分の成長が必要です。
そこで人材教育に関することをとにかく調べました。
そして運良く出会ったのが湯ノ口弘二先生です。
3万人以上のビジネスパーソンを育成してきた方です。
現コミュニケーションエナジー株式会社の代表取締役で、精力的に研修や講演を行われています。
初めて湯ノ口先生の研修に参加した時、大きな感銘を受けました。率直にえば「この人になりたい」と。
名古屋で行われる研修には全て参加。
それでも物足りなくなり、ある日、受講生なのに先生のアシスタントを志願することに。
東京や大阪で行う研修に同行し、教育のいろはを徹底的に学びました。私の研修は、湯ノ口先生の理論がベースにあるのは違いありません。
安藤
恐れずにびんでいく。その行動力は恐れ入ります。
山田
私は”研修マニア”で満足しなかったから今があると思っています。
研修で学んだことを持ち帰って共有しなければ意味がありません。私は研修で学んだことを自分なりにアレンジし、社員やアルバイトの前でこれでもかと言うくらい伝えまくり実践していきました。
このプロセスが一番大切です。だから結果がついてきた。
スタッフの定着率は高くなり、私が立っていた頃よりも活気が絶えない店へ成長していきました。
”居酒屋から日本を元気にする”を目的に開催されている居酒屋甲子園では、東海地区大会で4回優勝。
地区予選で選ばれた上位5店舗が数千人の前でプレゼンを行う決勝大会には、5回も出場させてもらいました。
社内研修を導入していなかったら決して目にする事は出来なかった光景です。
社内研修内省化とい教育モデルと居酒屋甲子園の結果などをキッカケに、私個人への依頼も届くようになり、そうして2014年から一人の講師として活動することになりました。
安藤
山田さんが受講生から講師へ成長したのですね。
山田
研修は受けるものではありません。
自分たちでやるものです。自社研修のプロになってもらうために、私が先ず先方様の企業内研修で講師として立っています。
数年間講師として立たせてもらっていますが、今でも「この人が講師?」なんて顔をされることもありますよ笑。
大先生のようなオーラを纏っているわけではありませんし、どちらかと言えば親しみやすいタイプでしょう。
でも「それが私らしいな」と。「講師として上に立つのではなく、講師として役に立ちたい」いつもそう考えて登壇しています。
私がスターでは面白くない。
その企業や店や営業所を引っ張っていくようなスターを輩出するお手伝いが心からしたいのです。
山田唯夫 ヒューマンリレーションズ株式会社 代表取締役
複数の飲食店・小売店を経営するかたわら、自身の経験を生かし企業内研修の講師としても幅を広げ、全国で活躍中。自社研修の講師を育てることをゴールとした独自の研修スタイルが、様々な業界から評価を得ている。
安藤竜二 株式会社DDR代表取締役
実践で培った経験が武器の叩き上げブランディングプロデューサー。地域ブランド「サムライ日本プロジェクト」を主催。2007年8月、経済産業省より地域中小企業サポーターに委嘱。地域を元気に、地域を世界に発信するため、全国を奔走中。著書に『地域企業から学ぶ未来に繋がるブランディング術』(株式会社流行発信・発行)他3冊。